ないものは…


 

 る金持ち、客に己の富を自慢して曰く、
「我が家にないものはありませぬな」
 そして指を二本折って、
「あえて言えば太陽と月がないだけです」
 そう言い終らぬうちに童僕が出てきて、
「旦那さま、台所の薪が切れました」
 すると、金持ち、もう一本指を折って、
「ないものは太陽と月と薪か」

(明『精選雅笑』)