際に起こった話であるという。差し障りがあるので、ここでは「さる人」としておく。そのさる人が身の回りの世話をする小姓を一人雇い入れた。しばらくして、この小姓はお暇をいただきたいと言い出した。この小姓、年若いながらもなかなかに気が利き、かなり重宝していたので許可してやらなかった。その後も何度か家に帰らせてほしいと願い出た。
 それからしばらく経ったある晩、この小姓が南の窓際の寝台で眠っていると、門から五、六十才ぐらいの女が入ってくるのを、主人が見かけた。女は大層肥っていて、歩くのも大儀そうであった。ちょうど小姓は布団を掛けずに眠っていたのだが、女はそれを見ると寝台のそばに近づいて布団を掛けてやった。そして、引き返して門から出て行こうとした。その時、小姓が寝返りを一つ大きく打ち、布団がずり落ちた。それを見た女は戻ってくると、また布団を掛けなおしてやった。それから門を出て行った。不思議に思った主人は夜明けを待って、小姓に家に帰りたい理由をたずねた。すると小姓は、
「母が病気なのです」
 と答えた。そこで、母親の顔形や年齢をたずねると、夕べ見た女と一致した。ただ、小姓の母は痩せているという。そこだけが違った。何の病気かきくと、
「むくみの病いです」
 と答えた。その答えにハッとした主人は、直ちに小姓に休暇を与えて家に帰らせた。まもなく小姓から便りが届いた。
「母が亡くなりました」

 女が肥っているように見えたのは、病気のせいでむくんでいたのであった。

(六朝『幽明録』)