女を恐れる理由


 

 の管国公任環は恐妻家で有名であった。任環が功績を立てた時、太宗皇帝は二人の美人を下賜した。任環は謝意を表したが、この美人を連れて帰ろうとはしなかった。
 太宗皇帝は任環の妻を召すと酒を下賜して言った。
「度を越えた女の嫉妬は立派な離縁の理由になる。今後、嫉妬を慎むならばこの酒を飲まなくてもよい。慎まぬならば…意味はわかっておろうな、この酒を飲め」
 任環の妻は、
「いくら陛下の御命令でも、慎むのは無理でございます。御酒を賜わりとうございます」
 と言うなり、酒を受け取って顔色一つ変えず飲み干した。任環の妻は皇帝が毒酒を下したと思っていた。妻は帰宅すると家族と決別して静かに死を待った。しかし、皇帝の下したのはただの酒であったので、酔っ払っただけで済んだ。
 他日、杜正倫がこのことで任環をからかった。すると任環は真面目な顔で言った。

「女には恐るべきものが三つある。輿入れしてきたばかりの頃は、すましこんでまるで菩薩様のようだ。菩薩様を恐れない人間がいるか?子供を産むと虎のように強くなる。虎を恐れない人間がいるかね?年がいってしわ婆あになるとなぁ、あれはもう人ではない。鬼だ。鬼を恐れない人間がいるか?これでは女を恐れるのも当然だ」

 それを聞いて杜正倫は大きく肯いた。

(唐『御史台記』)