人柱


 

 末のことである。汾州(注:山西省)で城壁を築いていたのだが、不思議なことに西南の隅だけが何度作業をしてもうまくいかない。朝出来上がったかと思えば、夕方には崩れてしまうのであった。
 城内に十二、三歳になる少女がいたのだが、突然、こんなことを言い出した。
「あたしを壁の中に入れなければ、できあがりっこないわ」
 少女は自ら人柱になることを志願したのであった。もちろん、家人は子供のたわごとと思い、真面目に取り合わなかった。その話を聞いた近隣の者も顔を見合わせて笑った。
 依然として築城は続行されたのだが、何度やっても結果は同じであった。
 ある日、少女はこう言った。
「あたしは今日死ぬの。死んだら甕(かめ)に入れてお城に埋めてちょうだい」
 その言葉が終った途端、少女の体はくず折れた。すでにこと切れていた。
 家人がその言葉の通りに城の西南の隅に埋めると、城壁は二度と崩れなかったという。

(唐『広古今五行記』)