白石


 

 川(りんせん、注:現江西省)の岑(しん)氏が遊山に出かけた時、谷川で二つの白い石を見つけた。大きさは蓮の実くらいで、互いに追いかけ合うように水の中を転がり回っている。不思議に思った岑氏は石を拾い上げて持ち帰ると、小箱に納めた。
 その夜、夢に二人の白衣の美女が現れ、
「私達姉妹、あなた様の左右に侍りに参りました」
 と言って、床の中に体を滑り込ませてきた。その途端、ひんやりとした感触に襲われて目が覚めた。床の中を探ると、小箱に入れたはずの二つの石が転がっていた。このことがあってから、岑氏は石が非常に神秘なものであることを知り、帯の中に入れて、いつも身につけておいた。
 後に豫章(よしょう、注:現江西省)を訪れた時、見知らぬ波斯(ペルシャ)人と出会い、
「あなたには宝物をお持ちではありませんか?」
 とたずねられた。そこで、例の二つの石を取り出して見せたところ、波斯人は三万の高値で買い取りたいという。岑氏はこの石を大事にしてはいた が、実のところ何の役にも立っていなかったので、即座に売り渡した。波斯人は感謝して立ち去った。
 その後、岑氏はこの金を元手に商売を始め、日に日に富んでいった。

 ただ、波斯人にあの石の名前と、どのような使い道があるのかを聞かなかったことがいつまでも悔やまれた。

(宋『稽神録』)