晴娘


 

 、北京に一人の美しい娘がいた。名を晴娘(チンニャン)といい、利口な上に手先が器用で切り紙が得意であった。彼女の切り紙の評判は遠近に知れ渡り、皇宮の后妃や公主達も人を遣わしてその切り紙を買い求めるほどであった。

 ある年の六月のこと、北京を大雨が見舞った。雨はいつまでも降り続き、一向にやむ気配を見せない。北京では城内の水が三尺もあふれ、人々は香を焚いて頭を地に打ちつけ、どうか雨がやむように、と祈願した。しかし、何の効き目もなかった。
 夜おそく、晴娘は水を避けて登った崩れ落ちそうな屋根の上で天に向かって祈願した。突然、大音声が響いた。
「晴娘よ、東海龍王が汝を太子の妃にとご所望じゃ。もしも、従わなければ、北京を水没させようぞ」
 晴娘は北京の人々を救うために声張り上げて答えた。
「命に従って天に上ります。どうか雨を止めてください」
 その途端、一陣の大風が吹きつけ、晴娘の姿は消えた。そして、雨は上がり、空は久しぶりに晴れたのである。

 以来、人々は晴娘をしのんで、六月に雨が降り続くと娘達に命じて人の切り紙を作らせて、門に掛けるようになった。
 これを『掛掃晴娘(グアサオチンニャン)』という。

(『北京伝統文化便覧』より)