画馬


 

 中初年(780)、一人の男が馬を牽いて馬医のもとを訪れた。
「この馬は脚を患っております。治していただけたら、二千銭を報酬にいたしましょう」
 この馬の毛色、骨相ともに、今まで見たことがないものであった。馬医は笑って言った。
「この馬は韓幹の描いたものとよく似ておりますなあ。生身の馬にはいませんよ、こういうのは」
 馬医は持ち主に馬を牽いて、市中を一回りさせることにした。馬医も一緒に歩いたのだが、ちょうどそこへ韓幹が通りかかった。
 韓幹は馬を一目見るなり驚いた。
「やっ!これは私が描いた馬ではありませんか」
 韓幹は己が描いた馬が、あの世で実体を備えたことを知った。馬の全身を撫でていると、脚を引きずっていることに気づいた。よく見てみれば、前の蹄に傷を負っていた。韓幹はことことを奇異に思った。
 帰宅した韓幹が自分の描いた馬の画集を見てみると、果たして蹄の部分に黒いしみがついていた。韓幹は驚嘆した。
「画に命が通った」

 馬医の得た報酬の二千銭は幾人かの手を経た後、泥の銭と化した。

(唐『酉陽雑俎』)