渇水


 

 の至正年間(1341〜1367)はじめ、不思議なことが起きた。揚子江の水が一晩で干上がったのである。浮かんでいた船はすべてむき出しになった川底に取り残された。
 川底のぬかるみには無数の貨幣が散らばっていた。長い年月の間に沈没した船の積荷と思われた。
 人々は争って川底に下りて貨幣をひろい集めた。潮が満ちて増水すると陸に上がり、水が引くと再び川底に降りて貨幣をひろった。中には逃げ遅れて溺死する者もいた。このようなことが数ヶ月も続いた後、揚子江はもとの流れに戻った。

 識者によればこの現象を江嘯(こうしょう)というそうである。

(明『草木子』)