六虎


 

 平(注:福建省)の呉氏に六人姉妹がいた。いずれも嫉妬深く獰猛(どうもう)で、人々は「六虎」と呼んで恐れはばかった。中でも「五虎」、つまり五番目の凶暴さは尋常ではなく、嫉妬から婢女(はしため)を十数人も殺していた。三度嫁いだが三度とも離縁されて実家に戻された。
 その頃、呉家ではしばしば夜中になると母屋の軒で怪しげな叫び声が響いた。皆が恐れおののく中、五虎だけが、
「くされ幽鬼が何をするか」
 と怒りをあらわにして恐れない。そして、寝台を中庭に移させると、ただ一人、刀を抱いて夜を明かした。さすがの幽鬼も恐れをなしたようで、朝まで物音一つしなかった。

 この話を聞いた人々は言った。 「五虎の凶暴さには幽鬼も恐れをなす」

(宋『遁斎閑覧』)