米豚と糠豚


 

 熙四年(1240)臨安(注:現浙江省杭州)は日照りとなり、大飢饉に見舞われた。城外の溜水橋(りゅうすいきょう)付近では死人の肉を混ぜた饅頭を売る者も現れた。
 翌年春になると状況はもっともひどくなり、饅頭をかじると刺青(いれずみ)の入った人間の皮が出てくることもあった。人々は肉の正体をわかりながら も、誰もあえて言い出さなかった。
 肉を売る者は客にまずこう問いかける。
「米豚がいるのかね?それとも糠豚?」
 米豚とは人肉のことで、糠豚は本物の豚の肉のことである。

(元『湖海新聞夷堅続志』)