梅下に憩う


 

 の開皇年間(581〜600)、趙師雄は羅浮(らふ、現広東省)へ移った。
 寒さ厳しい夕暮れ、師雄は酔いを醒まそうと車を松林の中にある酒屋の小屋に止めた。そこへ淡く化粧を施し、白衣をまとった美女が現れた。美女はニッコリ笑って師雄を迎えた。
 日はとっぷりと沈み、残雪が月明かりに照らされてほのかに明るかった。師雄はうれしくなって、美女と言葉を交わした。美女の体からは芳しい香りが漂い、その言葉は清らかで俗なところがなかった。師雄はますますうれしなり、酒屋から酒を取り寄せ、美女とともに酌み交わした。
 しばらくすると、どこからともなく緑衣の童子が現れ、師雄と女の前で朗(ほが)らかに歌い踊った。師雄は興の趣くままに盃を重ねて酔いつぶれ、ゴロリと横になった……。

 師雄が身にしみる寒気に目覚めれば、月はすでに西に沈み、東の空が白んでいた。師雄は己が大きな梅の木の下で眠っていることに気づいた。梢(こずえ)では緑色の鳥がさえずっていた。
 師雄の胸に寂寞(せきばく)としたものがこみ上げた。

(唐『龍城録』)