美 男 子


 

 中の路巌(ろがん)は風流な美男子として有名であった。成都へ赴任してからは職務を部下に任せ、自らは妓女をひき連れて水辺で宴に興じた。
 年頃の娘達は路巌の水際立った男ぶりに胸を焦がした。その人気は古の美男子、衛玠(えいかい)や潘岳(はんがく)といえども、比べものにならないほどであった。
 路巌は頭巾の結び方に凝り、成都の人々は皆、それを真似した。あまりにも多くの人が真似をしたので、当の路巌は頭巾の垂れを切って区別をつけ た。

 身なりに気を遣う伊達男はこうからかわれた。
「お前さん、路侍中のつもりかい?」
 豚肉市場を通りかかると、仲買人が屠殺業者にこう言っているのを聞いたこともある。
「この豚は確かに立派だけど、路侍中ほどではないねえ」
 こんなところにまで路巌が引き合いに出されるとは、いやはや笑ってしまう。

(宋『北夢瑣言』)