豚 異 聞
至正八年(1348)のことである。
杭州(現浙江省)の塩商人施生の豚小屋で、母豚が子豚を食うという椿事(ちんじ)が出来(しゅったい)した。豚飼いが棒で打つと、母豚は突然、
「あんたがあたしにエサをくれないから、自分の子を食べただけよ。あんたには関係ないでしょ」
と人語を発した。仰天した豚飼いは主人の施生へ報告した。
施生が豚小屋へ出向いてみると、騒ぎを聞きつけた人々が集まっていた。ある者は、
「殺してしまえ」
と言い、ある者は、
「売り払った方がいい」
と言った。
その時、母豚がまた人語を発した。
「あたし、あんたの家にまだ三十七両五銭の借りがあるのよね。ねえ、あたしを売っちゃってよ。そのお金で返済させてもらうわ。まったく外野がギャアギャア騒いでうるさいったらありゃしない」
母豚を売りに出したところ、果たして三十七両五銭で売れた(元『山居新語』)