厠の縁台


 

 慶十二年(1807)十月のことである。
 長山(現山東省)の袁叔埜(えんしゅくや)が焦家橋(しょうかきょう)の古い邸に泊まった。夜中に叔埜が厠(かわや)へ行くと、置いてある縁台が突然動き出した。
 叔埜は肝が据わった人だったので、別段怪しみもせず、そのまま寝所へ戻った。
 しばらくして叔埜が外を見ると、例の縁台が少しずつこちらに近づいてくる。これを見た老僕が大声で叱咤(しった)したところ、縁台は動かなく なった。

 いかなる怪異なのか、いまだにわからない。

(清『履園叢話』)