取り違え


 

 定(現江蘇省)で同じ日の同じ時刻に嫁入りする家が二軒あった。
 暗くなってから出発した二つの花嫁の轎(かご)は途中で鉢合わせをした。轎かき人夫達はふるまい酒でしたたかに酔っており、互いに道を譲らな い。しばらくにらみ合いを続けた後、轎を路傍に下ろしての乱闘となった。提灯(ちょうちん)は吹き飛び、あたりは真っ暗になった。
「やっ、刻限に間に合わんぞ!」
 誰かがそう叫び、ハッと我に返った。双方、慌てて轎を担ぐと、それぞれの嫁ぎ先へ向かった。

 翌朝になって、信じられない事実が発覚した。何と、花嫁が入れ替わっていたのである。慌てた人夫達が暗い中で轎を取り違えたのであった。県の役所に訴え出る大騒動となった。
 結局、
「すでに婚礼もすみ、それぞれの花嫁は婿の家で一夜を過ごしている。また、嫁ぎ先の家柄、婿の人物ともに、同等だったので、この婚姻は継続すべ し」
 という判決が下された。
 取り違えの原因となった轎かき人夫達は百叩きの上、放免とした。

(清『巣林筆談』)