李道甫の妾


 

 書の李道甫(りどうほ)は豪奢を好み、姫妾(きしょう)を数十人も蓄えていた。道甫は病状が悪化した時、姫妾達にこうたずねた。

「ワシが死んだら、誰か供をしてくれるか?」

 すると、姫妾達は争って、

「私が殿様のお供をいたします」

 と言った。ただ、最も年若く、最も美しい姫妾だけは口をつぐんで何も言わなかった。皆は、

「冷たい女だ」

 と、陰口を叩いた。

 道甫が亡くなると、年若い姫妾は美しく化粧し、晴れ着をまとった。皆が非難すると、

「殿様は私の容色を愛(め)でておいででした。みすぼらしい姿でお供をすることもありますまい。殿様もそんなことはお望みではないでしょう」

 姫妾は道甫の柩(ひつぎ)のそばにおること七日、あらゆる飲食を断って死んだ。道甫に殉(じゅん)じたのは、この姫妾一人だけであった。

(清『池北偶談』)