李 氏
滄州弓高県(河北省)の李氏は嫁いで一年も経たないうちに夫に先立たれた。まだ十八歳であったが、亡き夫に操を立てることを誓った。なまぐさを断ち、粗末な衣を着て、毎日、霊前に三度食事を供えて泣き暮らした。そのようにして六、七年が過ぎた。
ある晩、夢に一人の美男子が現われて、李氏に共寝を求めた。李氏が驚いて男の誘いを退けた。以来、男は毎晩、李氏の夢に現われ、関係を迫るのであった。男の正体はもののけと思われたので、李氏は護符を貼り、魔除けの呪いをするなどしたが、何の効き目もなかった。
李氏は嘆いた。
「私は一生、操を守ると誓いました。それを乱そうとする者が現われるのは、私の容色がまだ衰えていないからでしょう」
そして、髪を切り、顔も洗わず、着物が汚れても構わなかった。
ある晩、男は李氏に頭を下げた。
「奥方の固いご決意をこれ以上乱すことはできませぬ」
翌晩から男が夢に現われることはなくなった。
郡守は李氏を表彰してその門前に牌楼を立てた。今でも李氏の住んでいたところは節婦里と呼ばれている。
(唐『朝野僉載』)