王 剛 哥


 

 介川(こうかいせん)は山水に遊ぶのを好んだ。
 ある日、介山(現山西省)に登り、山中の介廟に泊まった。暁月が東に昇り、白雲が空にかかった。介川はにわかに興にかられ、上着をひっかけると、山門の外に出てみた。
 辺りはしんと静まり返っていた。そこへどこからか鳥が一羽、飛んで来た。鳥は飛びながら鳴いた。
「王剛哥(ワンガンガー)、王剛哥」
 その鳴き声は胸をかきむしるように悲しげであった。
 廟に戻った介川は僧侶にこの鳥のことをたずねると、
「あの鳥に名前はありませぬ。言い伝えによると、昔、友人同士二人でこの山に登った者がおりました。突然、一人が姿を消してしまい、もう一人が山中探し回ったのですが、結局見つかりませんでした。その人は探し疲れて鳥と化し、夜になると行方知れずの友人の名を呼びながら山中を飛び回るのだそうです。地元の人達はこの鳥の鳴き声をとって『王剛哥』と呼んでおります」
 とのことであった。

(清『柳崖外編』)