車 夫


 

 偉人(てきいじん)先生は若い頃、非常に美貌であった。
 ある年若い車夫が先生の勤める役所に身を投じ、その専属となった。勤めぶりは実直で誠心誠意先生に仕え、賃金をやっても受け取らない。先生も何かと目をかけ、可愛がった。
 しばらくして、車夫は重い病にかかった。医者や薬も効かず、病状は悪化するばかりであった。
 車夫はその今際(いまわ)のきわに先生を枕辺に呼んだ。
「やつがれはもう死にます。嫌われたらと思って今まで黙っておりましたが、思い切って打ち明けます。この病の原因は旦那様です。やつがれは旦那様の美貌を愛したために死ぬのです」
 先生はさばけた人だったので、笑って車夫の肩を叩いた。
「そう思っていたのなら、どうしてもっと早くに言ってくれなかったのだ」
 車夫はこの言葉を聞くと、安心して死んでいった。先生は手厚く葬ってやった。

(清『子不語』)