曹 阿 狗


 

 安(現浙江省)の程三郎の妻は美しくて聡明で、人々から三娘子(さんじょうし)と呼ばれていた。
 ある夏の日、朝化粧をしていた三娘子が、突然、わけのわからないことを言い出した。三郎は妻がもののけに憑かれたのだろうと思い、左手でその頬を打った。すると、三娘子は男言葉でこんなことを言った。
「イテテ、ぶたないでおくれよ。オレは隣の曹阿狗(そうあこう)だよ。家でお供えをすると聞いて一緒に来てみたら、オレの席だけないじゃないか。ほかの亡者達の手前恥ずかしいし、何よりひもじい。それでお宅の三娘子が賢いって言われていたことを思い出して、のりうつって食べ物をせがむことにしたのさ。こわがることはないぜ」
 三郎が隣家の曹家に確かめに行くと、前夜、確かに僧侶を呼んで先祖の法要を執り行っていた。この阿狗は隣家の曹氏の無頼の少年で、若くして独り身のまま亡くなったのだが、跡継ぎがいないため、供え物をしなかったという。
 曹家では酒や紙銭を用意して三娘子の前に並べ、非礼をわびた。三娘子はうれしそうな様子で言った。
「今日はオレ一人のためにお供えをしてくれるんだな。これからお供えをする時には、くれぐれもオレのことを忘れないでくれよ」
 曹家の者がそうすると約束すると、三娘子は意識を取り戻した。

(清『子不語』)