鼻飲(びいん)


 

 の范成大の『桂海虞衡志(けいかいぐこうし)』には南方のさまざまな物産・風習・民族について記されている。その中に「鼻飲杯」の記事が見られる。

  「鼻飲杯」とは外観は普通の碗であるが、長い管のような注ぎ口がついた鼻飲専用の杯のことである。ちなみに鼻飲についてであるが、これは広東・広西地方の一種独特な飲料の摂取方法である。
 『資治通鑑』巻二十八の注にはこの鼻飲に関する范成大の言が引用されている。それによると、当地では貧富を問わず鼻飲を好み、銀・錫・陶器・瓢(ひさご)などで鼻飲杯を作る。鼻飲の方法であるが、注ぎ口を鼻に差し込んで吸い込む。その水には塩、しょうがのしぼり汁数滴を混ぜる。吸い込んだ水は鼻からまず脳へ昇り、それから喉へ落ちる。なお、鮓(さ、注:魚肉を醗酵させたもの)を一切れ口に含んで鼻飲をすると水が喉に通りやすくなる。飲み終えると必ずゲップが出て、頭と胸がすっきりする。その妙味、言葉では言い表せないそうである。
 ただし、酒は鼻飲に適さない、とのことであった。