湿彌羅(カシミ−ル)王が一羽の鸞を買った。鳴き声を聞こうと思ったが、全く鳴かない。そこで、金の籠に金の鎖でつなぎ、贅沢な餌を与え、その心をほぐして鳴かせようと試みた。しかし、一向に鳴く気配のないまま三年が過ぎた。

 ある日、夫人が王に言った。
「聞くところによると鸞は同類の姿を見ると鳴くと言います。鏡でその姿を映させたらいかがでしょう」
 なるほどと思って、王は鏡を用意させると鸞の籠の前に懸けさせた。鏡を覗いた鸞は天を仰いで一声だけ鳴いた。その鳴き声は悲哀に満ち、天空に響き渡った。それから、鸞は籠の中で羽をはばたかせると、そのまま身をうち震わせて倒れた。

 籠を開けてみると既にこと切れていた。

(六朝『異苑』)