おっとり


 

 る文雅な男がいた。性格はいたっておっとりで、物言いや挙措には少しも焦ったところがなかった。
 厳冬のある日、友人とともに炉を囲んで話していると、突然、ものの焦げる匂いがする。見れば、友人の着物の裾に炉の火が燃え移っている。そこで、穏やかに話しかけた。
「実は大事なことに気が付いてからかなりの時間が経っているのです。あなたにお話ししなければと思ってはいたのですが、何より、あなたはお気が短い。しかし、言わなければ言わないで、今度はあなたが怪我をするおそれがある。してみれば、言った方がよろしいのでしょうか?それとも言わない方が…」
 友人、苛立って早く言え、とせっつく。男は慌てず騒がず、
「実はね、着物の裾が…」
 友人、慌てて着物を脱ぎ捨てると、叩いて火を消した。そして、怒って、
「とっくに気付いていながら、何で早く言わないんだ?」
 すると、くだんの男、にっこり笑って、首を振った。
「ほらね、お気の短いこと。私の言ったとおりでしょう?」

(宋『籍川笑林』)