真面目な番頭さん(二)
李媒は続けた。
「実はさ、あたしんとこにおあつらえ向きの話が一つあってね。美人な上に家柄もよしってのがさ。さもなきゃ、こんなべらぼうな話、受けるわけないじゃない」
「誰さ」
「ほら、あんたも知ってるでしょ、王招宣(注:招宣は高級武官の一つ)様のとこのお妾さんよ」
聞いた張媒は驚いて聞き返した。
「へっ、あれかい?あんなに可愛がってらしたのに出しちまうってのかい?」
「確かにね、初めのうちはたいそうなご寵愛ぶりだったよ。たった一言余計なことさえ言わなきゃよかったのにね。で、すべておじゃんさ。招宣様の方では支度金を数万貫つけてよそへお嫁にやろうってんだから、豪気なこった。まあ、よっぽどのことがあったってことなんだろうけど。条件はぴったりなんだけど、若すぎるのよねえ」
これを聞くと張媒は、
「年を取りすぎてるのなら問題だけど、若いのなら問題ないわ。むしろ、若けりゃ若いほどいいってものさ。張の爺さんだってイヤだなんて言いやしないよ。そりゃね、女の方は面白くなかろうがね。ここはあの爺さんの年を十か二十ごまかして何とか話をまとめましょうや」
李媒も少し考えていたが、
「お妾さんには少し気の毒な気がするけど……ま、こちとらがあの爺さんと結婚するわけじゃないんだから、いいっか。じゃあさ、明日一緒にまず、張の爺さんとこに行って結納のことを決めて、それから招宣様に話をしに行くとしよう」
「じゃ、明日ね」
と言って、二人の媒婆はそれぞれ帰って行った。
翌日、二人は連れ立って張員外のもとを訪れた。
「昨日、旦那様のお出しになられた三つの条件に適った嫁御が見つかりました。第一の器量は文句無しです。第二に王招宣様の所のお方ということで身元もしっかりしております。第三に支度金も十分です。ただ、ちょっと若すぎるので旦那様のお気に召すかどうか」
張員外は若いと聞いて内心ホクホクで尋ねた。
「若いってどのくらい若いのじゃ?」
「旦那様より三、四十歳は下かと」
と張媒が答えると、張員外は顔をほころばせて、
「全てお任せいたしましたぞ。早速、話を進めて下され」
と大いに喜んだ。
と言うことで二人の媒婆が話をドンドン進めて、あっと言う間に婚礼の期日となった。婚礼当日の張員外は紫の絽(ろ)の着物を着込み、新しい頭巾に新しい靴下、新しい鞋、と何から何まで新品尽くし。おかげで中身の古さがかえって目立つというもの。そこへ花轎に乗せられて花嫁が到着した。
轎から下り立った花嫁は真紅の嫁入り衣装に身を包み、金糸で刺繍した真紅の蓋頭(かずき)を頭からすっぽり被っていた。蓋頭で顔は見えないが、すらりとした体つきである。なよなよと張員外の傍らに歩み寄ると、二人並んで天地を拝した。花嫁が頭を下げた時に蓋頭の下から口元がちらりと覗いたが、白い小さな顎に桜桃のような唇に張員外、すっかりご満悦である。
天地を拝した後、いよいよ洞房(ねや)で花婿花嫁が対面することになった。