報恩鼠


 

 応年間(762〜763)のことである。洛陽に住む李家では代々家訓で殺生(せっしょう)を禁じ、猫を飼わなかった。子も孫もこの家訓をしっかり守ったため、李家の鼠達は一匹も命を落とさないですんだ。
 ある日、李家で親族を知人を招いて大宴会を催した。一同が席についた時のことである。門外に数百匹の鼠が集まり、後ろ足で立ち上がると、前足を振り動かした。まるで何か嬉しいことがあって、踊っているようである。
 これを見た下僕が驚いて主人に告げた。主人は珍しがり、家族と客人達をひき連れて見に行くことにした。全員が外へ出た途端、いきなり建物が倒壊(とうかい)した。鼠達は建物が倒壊したのを見ると姿を消した。
 李家の人々と客人達は鼠を見に出ていたおかげで、誰一人怪我をしないですんだ。

(唐『宣室志』)