妬婦


 

 の騎将の石某は勇猛果敢で多くの戦功を立てていた。その夫人は非常に気が強い上に嫉妬深く、石騎将は日頃から手を焼いていた。
 困り果てた石某は、ある夜、夫人が一人で家にいる時を見計らって、刺客を放って殺させようとした。刺客が眠っている夫人に刃を突き立てようとしたその時、目覚めた夫人は刃を素手で握りしめて大声で助けを呼んだ。すると、下女達が飛び込んできて、力を合わせて応戦した。
 結局、刀の鐔(つば)が折れてしまい、刺客は退散した。夫人は十本の指すべてに傷を負ったが、命に別状はなかった。

 数年後、秦は滅び、石騎将は家族と部隊を率いて蜀に移った。石騎将が褒(ほう)に駐屯した時、またもや軍中から刺客を募り、家に残っている夫人を殺させようとした。
 褒と蜀は相隔たること数千里。刺客は刀を手挟み、書簡を懐に、その留守宅を訪れた。
「褒からの書状をお届けしにまいりました。奥方様にじかにお渡ししたい」
 夫人はこれを聞くと、喜んで面会を許した。刺客は夫人に目通りすると、書状を捧げて近づいた。そして、一瞬の隙を突いて白刃を振るった。その 時、そばにいた娘が母に代わって白刃の前に身を躍らせ、素手で刃を受け止めた。騒ぎを聞きつけた家人が救いに集まってきたので、刺客は退却を余儀なくされた。
 娘は十本の指すべてに傷を負ったが、母は無事であった。

 十年後、蜀は滅び、石騎将は家族を連れて故郷の秦に戻った。その後は夫婦仲良く老後を暮らし、天寿を全うしたのであった。

(五代『玉堂閑話』)