どけち


 

 の世に一人の老人がいた。非常に裕福であったが、子供がなく、ものすごくけちであった。つぎはぎだらけの着物に粗末な食事で、夜明けとともに起き出してせっせと働き、日が沈むと寝ていた。老人の最大にして唯一の楽しみは蓄財であった。彼は貯めこんだ財産を少しも自分のために使おうとはしなかった。
 もしも、他人が援助を乞いにやって来たならば、しぶしぶ中へ通す。そして、銭を十枚つかんで母屋から出てくると、一歩につき銭を一枚ず つ減らしていく。相手に渡す時には、銭は半分以下になっている。いざ渡す段になると、ギュッと目を閉じ、まるで己の身が切られるような悲痛な声で言うのであった。
「ああ、ワシは身代を傾けてまで、お前さんを援助するのだぞ。くれぐれも他言はしてくれるな。お前さんの真似をして、何人も来られちゃたまらんわい」

 老人はほどなくして亡くなった。相続人のない家屋敷と田畑はすべてお上に接収された。

(六朝『笑林』)