小人の市


 

 林学士(かんりんがくし)の裴択之(はいたくし)は陽武県(注:現河南省)の人である。
 六、七歳の頃、祖父の馬の前に乗せられて東北の村へ出かけた。外濠(そとぼり)にさしかかると、城門の南北に市が立つのが見えた。老若男女、役人に兵士、僧侶もいれば道士もおり、大勢が行き交っている。取り引きをする商人に、荷担ぎ人夫もいれば、驢馬を牽く者、荷物を積んだ車、何から何まで普通の市と変わらない。ただ、すべてが小さいのである。人々は背丈が二尺ばかりしかなかった。
 択之は祖父を仰ぎ見て言った。
「おじいさま、小人の市が立っています」
「ここには何もないよ。ウソを言ってはいけない」
 祖父には何も見えず、子供のたわごとと思った。

 その後も択之はここを通るたびに不思議な市を見たという。

(金『続夷堅志』)