燕佳話


 

 玉京(ようぎょくけい)は覇陵(注:現陝西省)の王整の妹である。本来は王姓の出自であるが、母方の姚姓を名乗っていた。一説には娼家の出ともいう。
 若くして襄州(注:現湖北省)の衛敬瑜に嫁したが、十六歳の時に未亡人となった。父母と姑は再婚を勧めたが、玉京は耳を削ぎ落として拒ん だ。周囲もその決心の固いのを知って、再婚させるのを諦めたのであった。玉京は実家に戻って以来、ずっと身を慎んで暮らしていた。
 王家にはつがいの燕が巣を作って棲みついていた。いつも二羽揃って仲良く飛び回っていた。ある日、エサを捜しに巣を出た雄の燕が鷹に噛み殺されてしまった。残された雌は雄の死骸の周囲を飛び回り、悲しそうにいつまでも鳴いていた。それ以来、雌はいつも一羽で飛び、一羽で巣に戻ってきた。
 ある秋の日、雌の燕は突然玉京の腕に止った。まるで別れを告げに来たかのようである。玉京はその足に紅い組み紐を結んでやった。
「来年の春、また私のお相手になってちょうだい」
 その言葉を聞き終わると、燕は飛び去った。
 翌年の春、果たして燕は一羽で戻ってきた。玉京は燕に語りかけた。
「私も旦那様を亡くして一人なのよ。あなたも同じね。私もあなたも旦那様のことを忘れることなんてできないわね」
 燕は毎年春になると王家に戻ってくるようになった。六、七年経った秋、玉京は病で亡くなった。翌年の春、燕がまた王家に戻ってきた。燕は玉京の姿を探して部屋中飛び回っていた。見かねた家人が燕に言った。
「奥様は亡くなったよ。お墓は城の東にある」
 燕はそのまま玉京の墓に飛んで行き、しばらく悲しそうに鳴きながら飛び回っていたが、ふいに地上に落ちた。絶命していた。

 以来、空気が澄み、月の明るい夜になると、覇水のほとりで遊ぶ玉京と燕の姿が見られるという。

(宋『麗情集』)