応報(前編)
秀
水(注:現浙江省嘉興市)に張鑑(ちょうかん)という人がいた。その日の暮らしにも困るほど落ちぶれ果てていながら正業にもつかず、日々、芸者遊びにうつつを抜かしていた。妻がせっせと糸を紡いで生活費を稼いだのだが、これが張鑑にはもったいないほどよくできた妻で、恨み言一つこぼさなかった。妻の苦労も顧みず、張鑑は新たに芸者を見そめた。あろうことかその花代欲しさに、自分の妻を人買いに売り飛ばしてしまった。
妻は死んでも行こうとしなかったが、人買い引きずられるようにして船に乗せられた。船が到着したところは水郷で、林の奥深くに高い垣根に囲まれた邸があった。
人買いが門を叩くと老婆が顔をのぞかせた。
「品物が着いたんだねえ」
老婆は張鑑の妻を見てうれしそうに言った。妻は一室に押し込められたのだが、格子がはめられている上に見張りまでいてまるで牢獄のようであっ
た。中には十数人もの女達がいて、ある者は憂い顔で坐り込み、ある者はひたすら泣いていた。
張鑑の妻は食を断ち、泣きながら死を求めた。怒った見張りが叱り飛ばすと、妻は嘘をついてこう言った。
「私は金の髪飾りを一箱を持っております。亡くなった母の形見です。夫が浪費家なので、内緒でお隣に預けておいたのです。そのままにしておきたくないのです。どうか、取りに戻らせて下さい」
見張りがこの話を主人に告げたところ、早速、妻を船に乗せて秀水へ戻ることにした。
秀水に着くやいなや、張鑑の妻は逃げ出して大声で助けを求めた。
「罪もない私を夫は売り飛ばした」
騒ぎを聞きつけて集まった人々が妻を保護し、人買いは役人に捕えられた。張鑑を拘引(こういん)しようとしたところ、すでに逃亡した後であっ
た。張鑑の行方はわからず、証拠不十分のまま人買いは釈放された。
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