紙魚


 

 書の張楊(ちょうよう)の末息子は道教に凝っていた。
 ある日、手軽に神仙になれる方法を耳にした。紙魚(しみ)が道教の経典の中に書かれている「神仙」という文字を食べると、体の色が五色となる。これを「脈望」という。この「脈望」を飲みさえすれば、神仙になれるというのである。
 そこで、彼は「神仙」という文字をたくさん紙に書きつけると、細かくちぎって瓶(かめ)に入れ、その中に捕まえてきた紙魚を放した。紙魚が「神仙」を書きつけた紙を食べたら、即座に飲んでしまうつもりであった。
 彼は瓶の前に坐り込んで紙魚が紙を食べるのを待った。しかし、紙魚はなかな紙を食べようとしない。それでも彼は待ち続けた。昼も夜も瓶の前を離れなかった。少しでも離れたすきに紙魚が紙を食べるかもしれない、それを誰かが飲んでしまうかもしれない…。

 そして、とうとう気がふれてしまった。

(宋『北夢瑣言』)