羊 の 縁


 

 熙五十九年(1720)のことである。
 山東巡撫の李樹徳の誕生日を祝うため、各官署から羊と酒が贈られた。連日、芝居が上演され、幕客達は夜を徹して酒宴を楽しんだ。
 李樹徳の幕客に張先生という法律顧問がいた。したたかに酔って酒宴の席から抜け出し、一眠りしようと自室に戻ると、帳の中からささやき声が聞こえる。張先生、てっきり幕客の一人が稚児(ちご)を連れ込んでけしからぬ振る舞いに及んでいると思い、
「コラッ!」
 と一喝して帳をまくり上げた。中では白い羊が二頭、交尾の真っ最中。群官が李樹徳に贈った羊であった。羊は張先生の姿を見るなり飛び上がって逃げ去った。張先生は酒宴の席に戻ると、このことを面白おかしく同僚に話して聞かせた。
 突然、張先生は地面に仰向けに倒れたかと思うと、そのまま平手で自分の頬を力いっぱい打ち始めた。ひとしきり打った後、張先生はこう罵った。
「ええい、憎らしいこの老いぼれめ。私と謝の若様は前世で結ばれず、四百七十年経ってようやくここで再会を果たしたのよ。何と辛かったことか。それをお前は邪魔をして。人の婚姻を台無しにした罪、許さないわ!」
 言い終わると、張先生はまたもや自分の頬を打った。
 騒ぎを聞きつけて李樹徳が駆けつけた。李樹徳は笑いながら諌(いさ)めた。
「謝の奥方、何もそこまでしなくてもよいでしょう。今日は私の誕生日、放生(ほうじょう)を行い、功徳(くどく)を積むつもりです。これからあなた達のお仲間数百頭を放しますし、あなたの前世の縁もまっとうさせてあげますから、ここは一つ許してやって下さい」
 すると、張先生は李樹徳にペコリと頭を下げて礼を述べた。
「ありがとうございます」

(清『子不語』)