意 識


 

 君謨(さいくんぼ)は美しい鬚髯(しゅぜん)の持ち主であった。
 ある日、宮中の宴席で、仁宗が君謨にたずねた。
「そちの髯はたいそう見事であるが、寝る時は衾(ふすま)の中に入れるのか?それとも外に出しておくのか?」
「さて……」
 君謨は考え込んだ。寝る時に髯をどうするかなど今まで意識したことがなかった。
「中……いや、外でしょうか……。臣にもわかりませぬ」
 帰宅して床に就く時、君謨は仁宗の言葉を思い出した。髯を衾の中に入れたり外に出したりしてみたのだが、どちらも落ち着かない。その晩は一睡もすることができなかった。

 意識するかしないかの違いである。

(宋『鉄囲山叢談』)