鉄 鎚


 

 州(えいしゅう、現安徽省)の少年が物に憑かれて、重態に陥った。もう助からないと思った家族は、少年を路傍に放置した。そこへ一人の道士が通りかかった。
「医術の心得があり申す」
 道士はそう言って、重さ数十斤(当時の一斤は約600グラム)はあろうかという鉄鎚(かなづち)持って来させた。何をするのかと見守っていると、鉄鎚で少年の頭を打とうとした。これには両親が慌てた。
「病人ですよ、そんなことされたら首が折れて死んでしまいます」
 両親が泣きながら止めに入ると、道士は笑って言った。
「大丈夫、大丈夫」
 鉄鎚が少年の頭を直撃した途端、口から身の丈二寸(当時の一寸は約3.2センチ)あまりの美人が飛び出して、すぐに消えてしまった。およそ百遍ほど鉄鎚で打ったのだが、そのたびに美人が口から飛び出しては消えた。大きさはまちまちであったが、すべて同じ姿かたちをしていた。その間中、少 年は何の痛みも感じていないようであった。
 口から美人が出なくなると、少年の病もすっかり癒えた。道士の姿も消えていた。

(清『池北偶談』)