姑蘇の猫


 

 蘇(現在の蘇州)斉門外の陸墓に一人の農民が住んでいた。農民は税を滞納しており、厳しい取り立てを逃れて姿を消していた。家には飼い猫が一匹、残された。取り立てに来た役人は税のかたにこの猫を連れ去り、[門+昌]門(しょうもん)近くに店を開く商人に売り飛ばした。
 ある日、農民がその店の前を通りかかった。すると、猫が店から走り出てその懐に飛び込んできた。しかし、すぐに商人に奪い取られた。猫は元の飼い主を恋しがり、ニャアニャア鳴いてやまなかった。
 その夜、猫はどこからか手ぬぐいをくわえて来ると、店に放り込んで姿を消した。
 手ぬぐいには金が五両あまり包んであった。

(明『涌幢小品』)