踊 る 猫
護軍参領の舒(じょ)某は歌が好きであった。どんな時でも歌を口ずさみ、むしろ歌わないでいる方が珍しいくらいであった。
ある日、友人の家を訪れ、共に酒を飲んだ。二更(夜十時頃)を過ぎても盃を片手に歌い続けていた。
その時、戸外から細々と歌う声が聞こえてきた。耳を澄ませて聞いてみると、歌詞もはっきりとしており、拍子もよく合っている。なかなかの歌い手とみえた。戸外には舒某が連れて来た小者(こもの)がいるのだが、歌はからきしだめであった。
「妙だぞ」
不審に思った舒某がこっそり外に出てみると、月明かりの下に猫が二本足で立っていた。そればかりでなく、歌いながら踊っていたのである。その姿は何とも楽しそうであった。
「大変だ〜」
舒某は大声で友人を呼んだ。猫はすでに塀に逃げていたのだが、石を投げつけると、塀の向こうへ逃げ去った。
猫の歌声は塀の向こうでも続いていた。(清『夜譚随録』)