虎おばさん


 

 陵江(注:四川省を流れる河)の近くに一人の老女がいた。年の頃は五十あまりで、自ら「十八姨(じゅうはちい、注:十八番目のおばさんという意味)」と名乗っていた。時折、人里に姿を見せるのだが、決して飲み食いをしなかった。

 十八姨はいつも人にこう言い聞かせるのであった。
「よいことだけをするんだよ。お天道さまに顔向けできないことをしちゃあいけない。くれぐれも家族で仲良く暮らし、目上を敬うのだよ。もしも悪さをするやつがあれば、猫ちゃんたちを何匹か調べに行かせるからね」
 その言葉も終わらぬうちに立ち去ることもあれば、または忽然と姿を消すこともある。

 毎年、何度か十八姨の姿が見かけられた。住民たちはその正体が虎の化身であることを知っていたので、みな恐れ敬った。

(五代『録異記』)