酔っ払い


 

 州(けいしゅう、現北京市付近)の村人、洪四(こうし)はたいそうな飲んべえであった。
 ある日、洪四は隣村の寄り合いに顔を出した。夕方、したたかに酔って帰宅する途中、河辺で若い女が二人、洗濯をしていた。喉の渇きを覚えた洪四は、女の傍らに椀があるのを見ると、
「うぃ〜、その椀で水を飲ませてくれんかね」
 と、声をかけた。すると、女達は怒って立ち上がり、洪四に唾を吐きかけた。
「何さ!酔っ払い」
 そして、二人とも洪四の目の前で河に飛び込んでしまった。椀も見えなくなった。
「何と河の幽鬼か」
 恐ろしくなった洪四は急ぎ足でその場を離れた。
 少し行くと、子供達が縄跳びをして遊んでいた。洪四が酔いに乗じて、
「どうれ、どれ、おじさんも入れてもらおうかな」
 と、飛び込んだところ、縄に引っかかって転んでしまった。子供達はドッと笑ってからかった。
「こらっ!」
 洪四は怒って子供達を追い回した。すると、子供達は口々に、
「酔っ払い!酔っ払い!」
 と言って洪四に唾を吐きかけ、河に飛び込んだ。
「ひゃあ、また幽鬼に会ったわい」
 洪四はすっかりふるえ上がり、わき目もふらず駆け出した。
 途中、廟の前を通りかかった。門前に道士が一人立っていたので、洪四は先ほど見た怪異を話して聞かせ、茶を一杯飲ませてほしいと頼んだ。すると、道士も洪四に唾を吐きかけて河に飛び込んでしまった。
 洪四は村を目指して一目散に走った。村にほど近くに毛という知り合いの家があった。その前を通りかかったところ、ちょうど、毛の女房が門前に 立っていた。女房とも顔見知りだったので、洪四は茶を一杯求めた。毛の女房が、
「中へどうぞ」
 と言うので、言葉に甘えることにした。女房は茶を取りに奥へ引っ込んだのだが、いつまで待っても戻ってこない。おかしいと思って洪四が見に行くと、毛の女房は廊下で首を吊っていた。
「ひぇえええ〜っ」
 洪四は逃げ出した。

 洪四はほうほうの体で帰宅すると、妻に今日見た怪異を話した。
「酒もほどほどにしないとなあ。毛のところのかみさんまで幽鬼に見えちまうんだもんなあ」
 妻が言った。
「毛さんの奥さんなら、今朝、ご主人と口論の末、首を吊ったのよ」

(清『柳崖外編』)