化年間(898〜901)のことである。
 劉道済(りゅうどうせい)という文士が天台山(現浙江省)の国清寺に滞在していた。ある日、夢に一人の娘が現れた。娘は道済を窓辺へ誘った。窓の側には柏の木が生え、葵(あおい)の花が咲き乱れていた。道済は娘が誰かもわからぬまま、夫婦の契りを交わした。以来、娘は頻繁に道済の夢に現れた。道済にはこの夢の意味するところがわからなかった。
 それからしばらくして、明州奉化県(現浙江省)の古い寺を訪れた。奥へ通った道済は驚いた。何と、夢で見た窓がある。その側には柏の木と葵の花もあった。
 僧侶の話によれば、この窓のある部屋にはさる役人が家族とともに仮住まいをしているとのこと。役人には才貌ともに優れた娘がいるのだが、貧しくていまだに嫁がずにいた。近頃、気鬱(きうつ)の病にかかっているという。
 道済の夢に現れたのは、この娘の魂であった。

 また、彭城(ほうじょう、現江蘇省)の劉生が夢で妓楼(ぎろう)に遊び、一人の妓女と馴染みとなった。目覚めてみれば、着物に妓女の移り香が残っていた。後に夢で遊んだ妓楼を訪れ、馴染みとなった妓女と会った。妓女の体からは移り香と同じ香りがした。

(宋『北夢瑣言』)