富州奇聞


 

 州(現雲南省)で奇妙な事件が起きた。ある富裕な商人の嫁入り前の娘が懐妊(かいにん)したのである。

 家族は両親と娘だけで、父は仕事の関係でいつも夜出かけて朝帰ってくるという暮らしを送っていた。父は懐妊を知ると、がたいそう怒って妻と娘を問いただした。すると、二人とも、

「どうしてこんなことになったのか、私達にもわかりません」

 と、当惑している。そこで、隣家にたずねてみると、

「お宅の娘さんはめったに外出しないから、ふしだらなことなんてあるはずありませんよ」

 と言う。父の訴えにより、役所が調査に乗り出して、驚くべき事実が明らかになった。

 ある夜、たまたま父が家におり、母と事を行った。この時、娘は寝台の反対側で寝ていたのだが、その様子を聞いていて何やら妙な気分になってきた。母は事が終わるとおまるで用を足し、その後で娘も同じおまるを使った。すると、おまるに残っていた父の精が娘の体に入り込み、懐妊したというのである。

 男女が混浴せず、厠(かわや)も別なのは、こういったことを避けるための古人の知恵なのだろう。

(元『至正直記』)