生き返った娘


 

 生は若い時から侠気に富み、豪胆であった。かつて楚州淮陰県(江蘇省)を旅し、市井(しせい)の不良少年達と交遊した。寓居の隣に王氏が住んでおり、娘が一人いた。劉生はその娘に縁談を申し込んだが、王氏は悪い評判を聞き知っていたので断わった。

 劉生は遊び暮らしたあげく食い詰め、兵隊となって淮陰を離れた。数年後、除隊した劉生は再び、淮陰に戻って来た。たまたま旧友と出会い、そこに厄介になることにした。昼間は狩りをし、夜は遊郭(ゆうかく)に繰り出した。

 ある夏、友人達と郊外に出かけ、墓の前を通りかかった。墓の盛り土が崩れて、棺が露わになっていた。特に気にも止めず、そのまま城内に戻り、いつものように酒を飲んだ。

 夕方から吹き荒れた激しい暴風雨が上がったばかりであった。誰かがふざけてこう言い出した。

「あの墓、流されちまったかもなあ」

 すると、別の誰かがこう言った。

「そうだ、この中にさっきの墓に供え物をしに行けるやつはいないか?」

 劉生が酔った勢いで答えた。

「オレが行ってやるさ」

「もし本当に行ってきたら、明日、皆でおごってやろう」

 そう言って、瓦に一人一人名前を刻んだ。

「これを供えて来いよ」

 劉生は瓦を持って出かけた。墓まで十里(当時の一里は約 560メートル)あまりもあり、到着した時には真夜中になっていた。月明かりの中、棺の上にうずくまる影がある。近寄ってみれば、それは女の死体であった。劉生は瓦を棺の上に置いて、女の死体を背負って帰った。

 皆は酒を飲みながら待っていると、劉生が重そうな物を背負って戻ってきた。

「ああ、重かった」

 劉生は灯りの前に女の死体を下ろした。美しく化粧を施した顔に、乱れた髪がかかっていた。皆は仰天し、中には扉の陰に身を隠す者までいた。

 劉生は酒を一杯あおると、笑って言った。

「美人だな。オレの女房にしよう」

 そして、女の死体を抱いて寝室へ向かった。皆は驚くとともに呆れもした。

 四更(午前二時頃)を回った頃、女の体がほんのりと温かくなり、かすかに息の通う気配がした。劉生が体をこすっていると、女は目を開いた。女の身元をたずねてみると、以前縁談を申し込んだ王氏の娘であることがわかった。

「病にかかって、それからの記憶はありません」

 劉生はまだ起き上がれない女の顔を拭いてやり、髪を整えてやるなど、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてやった。その甲斐あってか、数日もすると女は起き上がれるようになった。

 王氏の近所にたずねてみると、娘は縁談が決まった途端、急な病で死んだとのこと。暴風雨の吹き荒れた日に納棺しようとしたところ、突然、死体が消えてしまったのだという。

 劉生は王氏を訪ね、娘が生き返って自分のもとにいることを告げた。王氏はたいそう喜び、劉生に娘を嫁がせることにした。皆は不思議な縁に驚き、劉生の豪胆さに敬服した。

(唐『原化記』)