猫 王


 

 建布政使の朱彰(しゅしょう)は交趾(こうし、現在のベトナム)の出身で、蘇州(現江蘇省)に住んでいた。景泰初年(1450)、左遷されて陝西(せんせい)の荘浪(そうろう、現甘肅省)駅の駅丞(えきじょう)となった。

 西域から使臣が一匹の猫をたずさえて朝貢(ちょうこう)に来る途中、荘浪駅に宿泊した。朱彰は駅丞として使臣一行をもてなした。献上するという猫を見せてもらったところ、普通の猫と何ら変わりがない。不思議に思って通訳にたずねさせた。

「この猫には献上に値する何か特別なところがあるのでしょうか」

 すると使臣は筆談でこう答えた。

「その異を知りたければ、今晩試してごらんなさい」

 使臣は猫を一室に連れて行き、鉄の籠に入れ、さらにその上からにもう一つ鉄の籠をかぶせた。

 翌日、様子を見に行くと、猫を入れた籠の周りで、どこから集まったのか数十匹もの鼠が死んでいた。使臣は紙に漢語でこう書いた。

「この猫がいるところでは、周囲数里の鼠がすべて集まってきて死ぬのです」

 これこそ猫の王なのであろう。

(明『庚巳編』)